債務不履行 とは、債務者が契約などに基づき発生した債務を履行(弁済)しないことをいう。法律学的には「債務者が債務の本旨に従った履行をしないこと」と表現される。なお、法律上の「債務」の不履行とは、貸金の返済などの金銭的債務だけを含むのではなく、いわゆる「義務」の不履行も含まれる。


まず履行遅滞(りこうちたい)とは、履行期を過ぎても債務が履行されないことを言う。例えば、2月3日までに豆を届けるという契約において、3日を過ぎても豆が届かない場合である。

履行不能(りこうふのう)とは、契約を結んだ後に何らかの理由で債務の履行が不可能になった場合のことを言う。例えば、ゴッホの絵を買う契約をしたが、それを引き渡すまでの間に火災によって絵が燃えてしまった場合がこれにあたる。

不完全履行(ふかんぜんりこう)とは、一応債務は履行されたものの、その内容が不完全である場合をいう。例えば、ビール3本を注文したのに2本しか届かないというのがこれにあたる。

強制履行

まず債権者は履行請求権を有する。これは、あくまで債務を履行せよと請求する権利である。具体的には、履行遅滞に陥っている債務者に「早くもってこい」と請求する場合や、不完全履行の際に「完全な履行をせよ(足りないものを補充せよ、など)」と請求する場合(追完請求または完全履行請求という)がある。債務者がその請求に従えばそれでよいが、従わない場合もある。そうした場合に債務者の意思を無視して、あるいは心理的な強制を与えることによって債務の内容を実現する方法がある。これが現実的履行の強制、または強制履行といわれる制度で、民事執行法に規定されている。なおコモン・ロー体系においてはこのような制度を設けず、損害賠償を原則とする法制度もある。

強制履行は債務者がどのような理由で債務不履行に陥っていても可能である(つまり債務者に帰責事由が無くてもよい)。ただし強制履行ができない債務もあり(自然債務を参照)、また履行不能の場合にこの手段を採ることは当然不可能である。

解除

また、債権者は相当の期間を定めてその履行をするよう催告を行い、その期間内に履行がないときは契約を解除してしまうこともできる(民法第541条)。これによって契約は初めから「なかったこと」になり、既に代金を支払っていたりすればそれを元の持ち主に戻す義務が生じる。これを原状回復義務という。解除をするためには債務者に帰責事由が必要であるというのが学説の多数意見であった。これは条文に規定されてはいないが、解釈上認められている要件である。しかし解除は債権者が反対債務から自己を解放するために行われるものであるため、債務者の帰責事由を要求する理由が無いとの説も有力になった。当初2004年の民法改正において解除に帰責事由を要求する旨を条文に規定する予定であったが、通説が確立されていないとの反論を受けて見送られた。

「債務不履行の事実」は債務不履行の類型によって異なる。履行遅滞では債務の履行が可能で、しかも同時履行の抗弁権や留置権のように履行を拒む理由が無いにも関わらず、履行期を過ぎても履行がされていない状態が「債務不履行の事実」にあたる。履行不能では、契約成立等によって債権が発生した後に履行が不可能となった場合が「債務不履行の事実」にあたる。これは後発的不能といわれ、債権発生前に履行が不可能となる原始的不能とは区別されてきた。ここでいう「不可能」とは物理的に履行が不可能になった場合だけでなく、事実上不可能になった場合も含まれる。不完全履行では、一応履行はされたものの数量が足りない、品質基準に満たない等の瑕疵のある場合が「債務不履行の事実」にあたる。不完全履行における債務不履行の事実は契約の解釈によって一様ではなく、立証が困難である。

帰責事由

帰責事由の具体的な内容については条文上明らかではない。伝統的には故意もしくは過失または信義則上それらと同視すべき事由が帰責事由であると理解されている。よって債務不履行が不可抗力によって生じた場合か、債務者が無過失である場合には損害賠償責任は発生しないことになる。ただし、債務不履行の類型によってその内容は異なると考えられている。特に履行遅滞の場合、不可抗力でも無い限りはほとんど帰責事由があると解されている。

債務者本人ではなく、債務者の使用人等、履行補助者といわれる者の過失によって債務不履行が生じた場合、この過失は債務者の過失と信義則上同視される。つまり、履行補助者の過失があれば債務者が責任を負う。これは履行補助者を用いることによって経済的活動範囲を拡大し、利益を増幅させている者はそれに伴って責任の範囲も拡大されるべきであるという報償責任の考えが背景にある。

供託

* 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる(494条)。

弁済の主体

通常は債務者がこれに当たるが、第三者も弁済することができる(474条1項)。

ただし、債務の性質がこれを許さない場合や、当事者が反対の意思を表示したときは、この限りではない(同条1項ただし書)。また、第三者に利害関係がない場合は、債務者の意思に反して弁済はできないとされる(同条2項)。

弁済の方法

* 弁済提供の方法(493条)

現実の提供(原則的な方法。何が現実の提供に当たるのかは債務の性質により決定される)
口頭の提供(債権者があらかじめ受領を拒んだ場合、あるいは債務の履行について債権者の行為を要する場合。弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告すること)

* 特定物の引渡し(483条)

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡せばよい。

* 弁済の場所(484条)

別段の意思表示がないときは、以下の例による。

o 特定物の引渡し:債権発生時にその物が存在した場所
o その他:債権者の現在の住所(持参債務の原則)

用語

* 債権の準占有者

債権者ではないのに、取引通念上、債権者としての外観を備える者を指す。借金においては、借用証書の所持者である。預金の払戻しにおいては、対面の手続で預金通帳と印章を提示した者、機械払いでキャッシュカードと暗証番号を提示した者を指す。

* 善意・無過失

弁済をした債務者が保護されるためには、弁済の時に善意(受領者に弁済受領権限があると信じること)かつ無過失である必要がある(同条)。

なお、民法の平成16年改正前は、条文上は善意のみが要求されていたが、無過失も必要であるとの判例(最高裁昭和37年8月21日判決・民集16巻9号1809頁・最高裁判例情報)が確立していたため、平成16年改正によって、民法現代語化に伴って、無過失の要件が明文化された。


盗難預金通帳等を用いた無権限者への払戻し(機械処理)

無権限者がATMに盗難通帳を挿入して払戻しを受けた件につき、民法478条の適用が争われた。最高裁平成15年4月8日第3小法廷判決・民集57巻4号337頁・最高裁判例情報)に示されるところでは、非対面、すなわち機械払いであることをもって同条の適用は否定されないとしている。併せて、機械払いによる無権限者への払戻しに民法478条の適用を主張するには、オンラインシステム全体について、無権限者による払戻しを排除するように注意義務を果たすことが必要とした(金融庁によるまとめ)。

ただし、本件については、預金通帳で機械払いを行えることが約款に明記されていなかった点を指摘し、無権限者による払戻しを排除するべく注意義務を果たしていないとして、その不備を理由に無権限者への弁済を無効としている。

また、単純な借金では、弱者である債務者を保護する規定であるが、金融機関が利用者に預金を払戻したり貸付金を払い渡す行為に民法478条を適用するときには力関係が逆転する。すなわち、強者である金融機関が債務者となり、弱者である口座開設者が債権者となる。ここへ弱者である債務者を保護する条文を適用するのは不適切であるとの意見もある。

さらに、免責の判断基準を専ら金融機関の手続行為に置き、手続に遺漏がなければ真の預金者への弁済義務を免除する一方で、民法478条を適用する場合には、真の預金者が被った損害は顧みられないという批判がある。

悪意・重過失に要求される認識内容の解釈が法学上問題になるが、相手方が手形上の権利を有しないことを知っていた(悪意)、または重過失により知らなかった(重過失)という一般の意味ではなく、さらに限定した意義に解し、保護される範囲を広く解釈されている。昭和44年の最高裁判決によると、手形法40条3項の悪意・重過失の意義は、以下のように解される。

* 悪意とは、「所持人が無権利であることを知っており、かつそのことを知っていながら故意に支払うこと」をいう。
* 重過失とは、「通常の調査をすれば容易に無権利であることを知ることができ、かつその立証方法も入手できたのに、調査を怠ったために無権利者に支払ったこと」をいう。